せんせい、おこらんといてな。

ウチの塾では、備品が消えることがよくある。新しく買ったばかりのペン、キャラクターのスタンプ、ハサミなど。

生徒が「誤って」持って帰っている場合もあるけれど、キャラクタースタンプが1セット消えたときには、さすがにスタッフ一同、「盗難」だと確信した。

そして昨日、その「犯人」がわかった。
発達障害のある女の子だった。その子は以前も近くのコンビニで万引きをするなど前科があり、今回もそうなのでは、と考えていた矢先、その子のお母さんがその子を連れて、謝りに来た。

実はその直前に三者面談をしており、ウチのオーナーがお母さんにこっそり、塾の備品が消えていることを伝えて、その子に確認をしてもらうよう、お母さんに要請していた。

案の定、沢山のペンとキャラクタースタンプが出てきて、慌てて二人で謝りに来た次第だった。

そのとき丁度オーナーは別の面談中で、対応したのは私だった。

本当に、どうしたらいいか分からなかった。
なんと声をかけたらいいのか。
その子は泣いていた。お母さんは深々と頭を下げて、謝ってくれている。

どうしたらいいのか。
どう声をかけたらいいのか。

「それでもこの塾にはこの子のそんな内面も含めてお世話になってきました。出来ることならば続けさせていただきたい。ですが、これ以上迷惑をお掛けするのも申し訳ないので、今後続けさせるかどうか含めて、しばらく考えたいと思います」

どうしたらいい?なんと言えばいい?
グルグル考えていた。考えながら出てきた言葉は本当にしょうもないものばかり。何の手助けも助言もできない。いや、助けようと思うこと自体が不遜なんだろうか。盗みを働けば、人の道を外れれば、必ず報いを受けるということを身をもって思い知ることが、彼女の将来のためになるんじゃないのか。

灰谷健次郎さんが、万引きをした女の子に詩を書かせた話を思い出す。

私も、本当は彼女にきちんと向き合って欲しいと思う。自分の行いを。

彼女は泣きながら、目を背けながら、謝っていた。許しを求めていた。一刻も早く、楽になりたがっていた。

翌日に彼女はディズニーランドに行くことになっていた。お母さんの気持ち、彼女の気持ちが胸の中で入り乱れて、困惑して混乱していたあたしは、
「明日のディズニーは楽しんで」
などと、本当に大馬鹿なことをヌケヌケと言ってしまった。

そんな自分が恥ずかしくて情けなくてしょうもない。

そんな話。